定型的な作業の自動化に役立つオフィスソフトのマクロ。業務効率化に有用な機能として多くのビジネスパーソンに重宝されてきました。

しかし近年になり、「業務でマクロは使わないほうがいい」という声がいろいろなところから聞かれるようになってきました。

便利なはずのマクロが、なぜ使わないほうがいいといわれているのでしょうか。その理由は、業務の属人化やセキュリティ面でのリスクを引き起こす恐れがあるためです。

今回のコラムでは、マクロが業務で使わないほうがいいといわれている理由について、3つのポイントから解説します。またマイクロソフト社のマクロに対する姿勢も公開記事を引用して考察。さらに記事の後半では、業務でマクロを活用するためにはどうすればいいのかについても解説します。

マクロの業務利用についてお悩みの方はぜひ参考にしてください。

そもそもマクロとは?

オフィスソフトにおけるマクロとは、ExcelやWordなどのアプリケーションにおいて、あらかじめ設定した操作手順を必要なタイミングで実行させるようにできる機能のことです。

Excelの作業効率を高めるために用いられることが多く、データ入力や集計・分類といった定型的な作業を自動化したい場合に役立つ機能となっています。

マクロとVBAとの違い

マクロと合わせて「VBA」という言葉がよく用いられますが、VBAはプログラミング言語の一種であり、両者は厳密には異なります

マクロを組むためには、ソフトに標準装備されているプリセット的な機能を活用するか(Excelの場合は「マクロの記録」など)、プログラミング言語を用いて自分でソースコードを書くかという二通りの方法があるのですが、VBAは、後者で用いられるプログラミング言語のことを意味しています。

マクロは機能の一種ですが、VBAはマクロを組むために用いられるプログラミング言語の一種です。両者には、機能とプログラミング言語という違いがあります。

マクロを業務に使わないほうがいい3つの理由

業務効率化のために重宝されてきたマクロですが、近年では「業務でマクロは使わないほうがいい」という意見が聞かれるようになってきました。

便利なはずのマクロが、近年になって使わないほうがいいと言われはじめているのは、なぜなのでしょうか。

さまざまな理由が想定されますが、大きな理由はマクロを使うことで業務の属人化セキュリティ面での懸念を引き起こすことがあるためです。

ここではマクロを業務で使わないほうがいい理由を3つに絞って解説します。

①業務が属人化しやすい

1つ目は、業務が属人化しやすいためです。マクロを業務に使用すると、マクロを読み書きできる従業員しかその業務に対応できなくなります。該当の従業員が休んだり退職したりした場合、他の従業員が業務を引き継ぐことができず、その業務に関連する仕事がうまく回らなくなる恐れがあります。

またマクロを組むときにはVBAでソースコードを書く必要がありますが、本人でなければ内容や他の業務との繋がりを理解できないケースも多いです。つまりVBAを扱える人材であっても、マクロが組まれた業務を正確に引き継ぐことは容易ではなく、それだけ業務が属人化しやすいということになります。

②マクロウイルスに感染する恐れがある

2つ目の理由は、マクロウイルスに感染する恐れがあるためです。マクロウイルスとは、マルウェアの一種です(マルウェア:悪意のあるソフトウェア)。マクロウイルスはExcelなどオフィスソフトのマクロ機能を悪用して、増殖したり破壊的な処理を実行したりします。ファイルの見た目は日常的に利用しているオフィスファイルと違いがないので、誤ってクリックしてしまいやすいマルウェアです。

マクロウイルスはマクロ機能を有効にしていると感染します。反対に無効にしているとスクリプトが実行されないので、被害を受けるリスクも低下します。マクロを業務で使用している端末は当然マクロ機能を有効にしているはずです。有効にしている状態でマクロウイルスを含んだファイルを開くと、自動的にスクリプトが実行され、端末がウイルスに侵されてしまいます。つまり、マクロを日常的に利用している端末は、マクロウイルスに感染するリスクがそれだけ高いということになります。

③汎用性がなく無駄になりやすい

3つ目の理由は、汎用性がなく無駄になりやすいためです。近年は主にITの分野で技術の発達が著しく、ChatGPTに代表される生成AIの登場や次世代の通信企画である5Gの普及など、新しい技術が次々と世に打ち出されています。それに伴いビジネスの環境も流動性が高まっており、従来は当たり前とされていた技術や価値観が、ある日一気に覆されてしまうということも珍しくありません

そのような時代にあって、マクロは汎用性の面で柔軟性に欠けるため、せっかく作ったとしても無駄になってしまう可能性が高いといえます。個人の業務範囲であれば、労力に見合う成果が得られやすいかもしれませんが、会社全体のワークフローで用いる場合は、マクロの内容が複雑になり、その労力に見合うだけのリターンを得ることは難しくなるといえるでしょう。

マイクロソフトの見解「インターネットからのマクロは既定でブロック」

マクロに対して、オフィスソフトの提供事業者であるマイクロソフト社はどのように捉えているのでしょうか。実はマイクロソフト社は、マクロの利用に対してセキュリティ維持の観点から肯定的でない見解を示しています

まず、マイクロソフトでは、Officeのセキュリティを向上させる目的で、インターネットからのマクロは既定でブロックするように動作が設定されています。*1

*1:インターネットからのマクロは、Office で既定でブロックされます – Deploy Office | Microsoft Learn

電子メールの添付ファイルなどインターネットから送信されたファイルにマクロが含まれている場合、「マクロの実行をブロックしました」というセキュリティリスクに関するメッセージが表示されます。利用する場合はブロックを解除する手順を踏まなければなりません。

また、以下の記事では、マクロは悪意のあるユーザーが無防備な被害者にマルウェアを配布するために使用される場合がよくあることや、日常的な業務においてマクロは必要がないことが書かれています。*2

*2 潜在的に危険なマクロがブロックされました

さらに同記事内では、インターネットから送信されたマクロを含むファイルが、本当に信頼に足るものか入念に確認することが勧められており、そのマクロが何を実行するものであるのか不明な場合には、そのファイルを削除することが推奨されています。

このことから、基本的にインターネットからのマクロはセキュリティ的にリスクを抱えたものとしてマイクロソフト社に認識されていることが伺えます。

またオフィスアプリケーションにおいてはマクロを使わなくても日常的な業務は遂行可能であるという文言から、マイクロソフト社はマクロは必要度が非常に高いものではなく、使わなくても既存製品で十分対応できると考えていることが読み取れます。

マクロを業務に活用するために

これまでみてきたように、さまざまな理由からマクロを業務で使うことはあまり推奨されていません。しかし、マクロそのものはさまざまな業務の効率化に役立つ利便性の高いものです。上手に活用することで、作業の省人化や時間短縮に効果が期待できます。

ここからはマクロを業務で活用するためにはどうすればよいのかについて、3つのポイントから解説します。

①上長やチームに許可をとる

1つ目のポイントは、上長やチームに許可をとることです。与えられた業務に対してマクロを使うことを上長やチームに報告し、必要に応じて許可を得るようにしましょう。理由は、業務の属人化を防ぐためです。勝手にマクロを使うと、他の従業員が業務を引き継ぐことができなくなり、業務の属人化が起きてしまいます。事前に共有しておけば、いざというときにチームで対応できるようになります

また、マクロを組むための業務リソースを確保する意味でも、前もって報告することは重要です。技術革新の目覚ましい時代背景からマクロは汎用性の面で課題があり、せっかく作ってもすぐに無駄になるリスクがあります。そのような中でマクロを組むために時間や手間をかけることは、場合によっては不適切なケースもあるでしょう。担当者でその適否を判断することは難しいので、業務リソースを割いていいのかどうか、上長への確認が必要です。

②引き継げる状態にしておく

2つ目は、第三者に引き継ぎできる状態にしておくことです。組んでいるマクロの内容について、第三者が理解できるように日頃から整理しておきましょう。説明書や仕様書という形でドキュメント化しておくのがおすすめです

VBAを使用している場合は、用いているソースコードの意味もわかるようにしておきます。コード内にコメントを残しておけると引き継ぎの担当者がコードの意図を理解しやすく、スムーズに引き継ぎがおこなえます。いずれにせよ、いざというときに引き継ぎができるように、第三者がマクロの内容を解読しやすい状態にしておくことが重要です。

③自分だけの業務で使うようにする

3つ目は、自分だけの業務で使うようにすることです。これはつまり、会社の業務には直接的に関わらない、自分だけがおこなう作業の効率化にのみマクロを使うということを意味します。

会社の業務で使う場合、先に書いたような引き継ぎのトラブルが起こる可能性があります。業務が属人化することで、他の従業員がその業務に対応できなくなり、業務効率化のために作成したせっかくのマクロが煙たがられてしまう恐れすらあるのです。

上長から承認を得ることやドキュメントの作成によって属人化は一定程度予防できますが、マクロを使える人材は限られているので、マクロが使われているだけでその業務は属人的であるといえます。

リトルソフト株式会社が全国の30~50代の会社員1,010名を対象に、「社会人のITスキル・利用ツール」に関する調査を実施した結果、「大体は自分で好きなようにVBAを作成できる」と回答した割合はわずか9.1%と10%に満たないことがわかりました。VBAを自由に扱える人材は、それほど多くはいないということです。*3

それであれば、会社の業務にはかかわらない個人的な業務にのみマクロを利用するのが、最も安全です。効率化できる範囲が個人の領域にまで狭められてしまいますが、自由にマクロが使えます。

*3 会社員のITスキル実態調査|現状のITスキルと社内の教育環境に課題感あり

月額300円で使えるクラウド型オフィスソフト

WPS Cloud Proは1ユーザーあたり月額300円(税抜)で使えるクラウド型オフィスソフトです。Microsoft Officeと高い互換性をもち、DOCXやPPTXといった拡張子のファイルの閲覧や編集に対応しています。

WPS Cloud Proでは、オフィス互換ソフトに加えてクラウドストレージとPDF編集機能も標準プラン内で利用可能です。オフィスドキュメントの編集や管理に必要十分な機能とアプリを備えており、WPS Cloud Proひとつでさまざまな業務をIT化できます。

ただし、WPS Cloud Proはシンプルな機能構成にこだわって作られているため、実は本記事で取り上げた「マクロ」がご利用いただくことができません。

その代わり、価格を1ユーザーあたりワンコイン以下におさえています。

マクロは非常に便利な機能のひとつですが、技術発展が著しい現代社会においては賞味期限が短く、業務の属人化やマクロウイルスへの感染といったリスクも抱えています。マクロの代用品として、RPAなど専門システムを代替導入する企業も増えつつあります。

シンプルな機能構成でかつ価格もリーズナブルなWPS Cloud Proをご利用いただくことで、オフィスソフトのコストを最適化することができ、浮いた分を専門システムの導入に充てがうことが可能となります。マクロの活用にお悩みの方は、ぜひこの機会にオフィスソフトの最適化についてご検討されてみてはいかがでしょうか。