クラウド型オフィス「WPS Cloud Pro」について、ワウテックの社員に10の質問を投げかける本企画、「中の人に聞いてみた」。今回はシリーズ第3弾として、【開発編】をお届けします。
インタビューに協力してくれたのは、プロダクト事業本部 開発推進部で部長を務める伍 陸さん(ウ・リク)。伍さんは、開発推進部の部長として、ワウテックの製品開発に全般的に携わる傍ら、WPS Cloud Proの開発チームと協業するための、ワウテック側の窓口業務も担当されています。
お客様からの技術的なお問い合わせにも対応され、WPS Cloud Proを熟知する伍さんに、WPS Cloud Proに関する10個の質問をしてみました。
※ワウテック株式会社は2023年9月1日にグループ会社であるキングソフト株式会社と合併いたしました。所属や役職は取材時点の情報です。
目次
Q1. WPS Cloud Proとはどのような製品ですか?
A. オフィスソフトとクラウドストレージが一体となったソリューション
オフィスソフトとクラウドストレージが一体となった、法人向けクラウドソリューションです。
オフィスソフトとは、一般的な製品でいえば、マイクロソフト社が提供している、WordやExcelなどのオフィスアプリケーション群が使えるソリューションが該当します。報告書や表計算ファイル、プレゼン資料や外部に公開する何らかのペーパーなど、そういった「ドキュメント」と呼ばれるものを、作成・編集できるツールです。
クラウドストレージは、ファイルストレージをオンラインで使えるものになります。クラウドストレージは「箱」の役割を持っていて、その中に入れるものは、画像でも動画でも、どのようなファイルでも問題ありません。
WPS Cloud Proは、この2つが一体となったソリューションです。特徴としては、クラウドストレージ上でドキュメントを管理するときの、ユーザー体験が独特であることがいえるかと思います。
具体的には、クラウドストレージ上でドキュメントの管理や編集を行えるようになっています。
ファイルをローカル環境にダウンロードしなくても編集ができたり、アクセス制限のようにファイルに対して何らかの制限を加えることができたりと、クラウドストレージとのコラボレーションによって、ドキュメント管理の可能性が拡張されている点がポイントです。
そういった意味で、WPS Cloud Proは、「ドキュメントとの相性が非常によい」という特徴がある製品だと思います。
Q2. クラウドはセキュリティが心配なのですが……。
A. クラウドの安全性は上昇傾向。むしろ逆転現象が起きている
いま現在、クラウドとオンプレミスのセキュリティについては、非常にフェアな評価が可能な時代になっているのではないかと思います。「クラウド=セキュリティが弱い」といわれていた時代もありましたが、いまは逆転現象が起きていて、むしろクラウドのほうが昔に比べて安全性が上がっているんです。
例えば、オンプレミスの場合、故障のリスクはすべて自社で負わなくてはいけません。また、サービスのライセンス切れの管理や、脆弱性をみつけたときのアップデートなどにも対応する必要があります。加えて、サーバーの置き場所にも配慮が必要で、地盤の弱いところや火災が起きやすい場所は、被災のリスクがあるので注意しないといけません。
また、これらはディザスター(災害)としての要因ですが、セキュリティの面でも留意すべきポイントがあります。
悪意ある方面での技術は日々進化していますので、防御する側も、これに対応して日々進化していくことが求められます。これは、オンプレミスでも同様です。標的型攻撃などのセキュリティリスクから身を守っていかなくてはいけません。
クラウドの場合、防犯などの物理的なセキュリティリスクについては、資金力のあるベンダーが強力な対策を施した場所で厳重に管理を行っているので、比較的安全性が高いといえます。
日々進化する技術に対しても、クラウドサービスはさまざまな拡張をシームレスに実行することができ、常に柔軟なアップデートをかけられるので、脆弱性などのセキュリティリスクにも迅速に対応可能です。
とはいえ、もちろんオンプレミスにもセキュリティ上、優れている部分が多数あるので、一概にどちらのほうが絶対に安全とは言い切れません。
いまはそれぞれのバランスが取れている時代なので、コストやリスクに対する評価は非常にフェアな条件で行えるものかと思います。ですので、「クラウド=セキュリティが弱い」と一概に判断されず、具体的にどういったセキュリティリスクが懸念されるのか、一歩踏み込んで検討されてみるのがよいのではないかと思います。
A. ネット接続によるセキュリティリスクにはご安心を
WPS Cloud Proは、通信の暗号化はもちろん、データの保全性や可用性を含めた強固なセキュリティ対策を施してあります。ですので、インターネットに接続することによるセキュリティリスクについては、ぜひご安心いただいて問題ないかと考えています。
Q3. WPS Cloud Proの特徴を教えてください。
A. PDF編集機能を備えていること、機能が絞られていること
PDF編集機能を備えていることは、他社製品にない大きな特徴だと思います。意外と便利に感じていただける機能なのではないかと。
あとは、機能が絞られている点ですね。「引き算の美学」といいますか、製品の思想として必ずしも「機能が多いこと=よいこと」ではないと考えている部分があり、シンプルな機能構成で、ユーザーが迷いなく使えることを重視した製品となっているんです。
日常的なドキュメント管理や文書作成の業務において、必要十分と感じていただけるような、シンプルな機能構成を目指した製品設計となっています。
A. ドキュメントを企業の資産として管理できる
これは、関連製品であるWonder Cloud Worksの世界観とも繋がる部分なのですが、WPS Cloud Proは、「ドキュメントの資産化」を実現できるソリューションでもあります。
ドキュメントの資産化とは、日々作成される文書やデータファイルといったドキュメント類を、企業の資産として蓄え、活用していく考え方です。
例えば、クラウドストレージを使わずに、オフィスソフトのみを使っていた場合、そこで作られた個別のドキュメント類は、本人のローカル環境に保管されます。共有サーバーに保管する運用を敷いていれば、そこで全体に共有することができますが、そのためには本人の能動的な動きが必要です。
それが、WPS Cloud Proであれば、オフィスソフトとクラウドストレージが一体になっているので、「ただ使うだけ」で、そこで作られたドキュメント類を、会社の資産として保管・管理できる仕組みになっています。わざわざユーザーが共有サーバーに格納しにいく動きをしなくてもいいんです。
「いつのまにか」と感じられるほど、ユーザーが無意識のうちに、ドキュメントの資産化が実現できること、それがWPS Cloud Proの大きな特徴だと思います。
Q4. カスタマイズはどれくらい可能ですか?
A. 「組織管理コンソール機能」で柔軟にカスタマイズが行える
SaaS型のサービスなので、基本的には、全てのお客様に同じ品質のものをお届けするという考えのもと、製品開発が行われています。ですので、受託開発のような個別のカスタマイズに関しては、詳しい内容を伺わせていただいてから具体的に検討という流れになります。
その代わり、というわけではありませんが、WPS Cloud Proでは、法人向けの機能として「組織管理コンソール」の機能を提供しています。この組織管理コンソール機能では、企業ポリシーに即したさまざまな設定を、ユーザー単位・部門単位で行っていただくことが可能です。例えば、ファイル共有の禁止や、社外へのファイル持ち出し制限などを、人や部署ごとに設定することができ、しかもスイッチひとつで簡単に行えます。
また、ストレージの容量についても柔軟に設定が可能です。現状のプランだと1ユーザーあたり100GBの容量が付与されるのですが、管理コンソール上で、ユーザーや部門ごとに容量の配分を調整できます。例えば、重いファイルを扱うチームのメンバーには多めに容量を与えて、そうでないチームのメンバーには、10GBなど容量を少なく設定するといったことができます。0GBから設定できるので、そもそもストレージを与えず、ファイルをアップロードできないようにするといったことも可能です。
このように、管理コンソール上からさまざまな設定が行えますので、自社のポリシーやルールに即した運用を、お客様の手で実現していただくことができます。
Q5. お客様に活用していただきたい機能はありますか?
A. オンラインの「共同編集機能」
オンラインの共同編集機能は、ぜひ活用していただきたいです。共有リンクを発行することで、1つのドキュメントに対して、社員のみなさん全員が柔軟にコラボレーションできるように作られています。
具体的にいうと、ドキュメントの編集履歴が残るので、誰が・いつ・どのような編集を加えたのか、履歴の一覧でわかるようになっているんです。
共有ファイルストレージを使う場合、編集完了時点で別ファイルとして保存し、アーカイブとして残すといった動きが必要かと思いますが、WPS Cloud Proのオンライン共同編集機能を活用すれば、ドキュメントの編集結果がリアルタイムに反映され、その履歴が残る仕組みになっているので、そういったファイル競合などの懸念がありません。
まさに目の前でファイルが更新されていくので、ドキュメントのどの部分を、誰が、どのように編集しているのか、パッと見てわかります。チームとしてドキュメントを管理するとき、非常に便利な機能なのではないかと思います。
Q6. 製品として「こだわりのポイント」はありますか?
A. お客様が決めたポリシーに寄り添うことを重視
お客様ごとに、会社の中で定められた固有のルールやポリシーがあるかと思うのですが、WPS Cloud Proは、そういった「お客様が決められたポリシーに寄り添うこと」を重視した機能構成となっています。
そこがひとつ、製品としてのこだわりポイントです。
クラウドストレージのような、オンラインを活用したコラボレーションツールは、使い方の自由度が非常に高く、活用次第で仕事の効率も大幅に上げられる一方で、うまく活用するためには、「どのように使うか?」といったルール設定が重要となります。ルールがないと、自由度が高すぎて、うまくいかないところがでてきてしまうんですね。
ですので、「どのようなルールを敷くか」というのは、クラウド型ツールを利用する上で非常に重要なポイントです。そのルールの基準は、会社のポリシーに沿って作られるものだと思います。
WPS Cloud Proも同様で、「どのようなルールで活用していくか」を検討することは、効果的な運用設計にあたって必須といえます。
そして、その問いの答えは、我々ベンダー側ではなく、お客様の会社の中にあるものです。
例えば、セキュリティひとつとっても、厳しくすれば使いづらくなり、ゆるくすればリスクが上がるといったように、トレードオフの関係にあります。この部分のバランスをどのように取るのかは、お客様が会社の中で定められたポリシーを基準に決定されるものだと思います。
WPS Cloud Proは、そういった「お客様が決められた企業ポリシーに寄り添うこと」を設計思想として組み込んだ製品です。
ユーザー単位で細かく機能設定ができることや、ファイル共有についてさまざまな制限がかけられること、共有の単位をファイル・ユーザー・チームといった別軸の単位で設定可能なこと、これらはすべて、そういった製品思想のもとに設計されています。
これらの細かな機能設定を活用いただくことで、お客様の企業ポリシーにフィットした、つまりお客様が決められたルールに即した運用を、お客様ご自身の手で実現いただくことができます。
もちろん、その部分での導入や運用については、弊社もサポートさせていただきます。過去、多種多様な業界のお客様に長く携わることで得た、さまざまなノウハウを所有していますので、それらをフル活用してお客様と二人三脚となって支援いたします。
Q7. WPS Cloud Proの好きな機能は?
A. 「スキンとUI」の機能。ユーザーの個性を大切にしてくれている感じがする
細かい部分なのですが、オールインワンモードとマルチコンポーネントモードが選べること、そこで「スキンとUI」が選べることが、個人的に好きなポイントです。「スキンとUI」の設定では、アプリの配色をユーザーの好みに設定できます。ピンクにしたり、オレンジにしたり。
この部分って、会社からすれば、どちらでもよいというか、実用性に関わる部分ではないので、別に機能として必須ではないと思うんですね。ただ、その部分をあえて残している点が、ユーザーのパーソナリティというか、個性を大切にしてくれている感じがして、いいなと感じます。
Q8. 開発で苦労したことはありますか?
A. サービス連携にあたって全体の設計図を描くこと
特に苦労したのは、サービス連携の設計図を描く工程です。実は、WPS Cloud Proは、弊社ワウテックで開発・提供している、WowTalk(ワウトーク)というビジネスチャットサービスと連携ができるようになっています。
主に、同じID・パスワードでログインができる「アカウント連携」と、チャット上で共有されたドキュメントをオンラインで閲覧・編集できる「ストレージ連携」の2つを、連携機能として提供しています。
ビジネスチャットとクラウド型オフィスという、異なる機能や設計思想をもった2つのサービスを、それぞれの特徴を活かしながらコラボレーションさせる。その設計を考えるところが、一番大変でした。私の体感ですが、この作業が、全工程の“7割”くらいを占めていたかと思います。
WowTalkのような、コミュニケーションに関するツールというのは、いろいろな連携方法を模索可能です。やろうと思えば、大抵のことは実現できてしまいます。できることの選択肢が多く、考え方次第でいかようにも変わる部分なので、それらをどう絞るか、どう連携していくのかを決めることに苦労しました。
Q9. どのような企業におすすめしたいですか?
A. ITやDXに苦手意識のある企業様にぜひ
全ての企業様にお使いいただきたいのはもちろんなのですが、特に、ITやDXに苦手意識のある企業様に、ぜひおすすめしたいです。WPS Cloud Proはシンプルな機能構成にこだわって作られた製品なので、「とっつきやすさ」という面でメリットを感じていただけるのではないかと思います。これからDX推進やクラウド活用を進めていきたいと考えられている企業様の、「第一歩」に適したサービスなのではないかと。
特に、ドキュメントやコミュニケーションって、クラウド化において「一丁目一番地」になり得るものだと思うんです。
1日の仕事のうち、60〜70%はコミュニケーションで構成されているとどこかで見たことがあります。また、仕事をするうえでドキュメントに全く触れない日も、そうそうないのではないかと思います。この部分をクラウド化し効率化することで得られるメリットや価値は、非常に大きなものだと思います。
Q10. 開発チームとしての方針を聞かせてください
A. 利用ハードルを低く。長く使うことに意味や価値を持たせていく
利用ハードルを低くしていきたいですね。マニュアルがなくても業務を遂行できたり、長く使っていてもストレスがなかったり、そういった教育やトレーニングにかかるコストを、できるだけ低くしていけるようにしたいです。それがまずひとつ、開発としての方針になるかと思います。
あと、「長く使うこと」に、意味や価値を持たせていくこと。この部分についても、開発方針におけるひとつの柱です。WPS Cloud Proは、サブスクリプション型のサービスなので、我々としては、ご契約いただいたお客様と、長くお付き合いをさせていただきたいと考えております。
数ある製品の中から、弊社のサービスをお選びいただいていますので、お客様には、後悔のない選択であったと感じていただきたいんです。そこに、高いモチベーションを持っています。
そのためにも、長いお付き合いを前提としたサービス設計、例えば先ほどにもお話しした、いつのまにかドキュメントが資産化しているような仕組み。このような、長くお使いいただけるほど、お客様の利便性が向上していくような、そういったコンセプトに基づいて、今後の機能追加やサービス改良を行っていきたいと考えています。
編集後記
今回は、中の人に聞いてみた企画・シリーズ第3弾ということで、開発チームの伍さんにお話を伺いました。開発担当者ならではの視点から質問にご回答いただき、とても参考になるお話しばかりでした。
特に、製品の“設計思想”や“こだわりのポイント”は、プロダクトの表側からだけでは分からない部分で、目から鱗の内容でした。普段何気なく使っているあの機能も、そういったコンセプトのもとに作られたものなのだと思うと、開発とは、ものづくりの技術だけを指すものではなく、「どう作るか、何がお客様のためになるのか」といった設計図を描く工程にも、重きが置かれるべきものなのだと感じました。
これからご利用いただくお客様にとっても、こういった“開発ストーリー”は、より納得感のある導入の手助けになるのではないかと思います。
エディター:ひよし りゅう